授業中、土方とつかず離れずの距離を保つ。
 いつも土方は体育の時、二人組になって練習する時、仲良しの近藤と組むが、今日は絶対に俺と組んでもらう。
 都合のいいことに、剣道部の主将の近藤と、副主将の土方は、体育の先生に頼りにされて色々とみんなに教えてやれって言われていたから、部活の後輩を指導するように同じクラスの未経験者達に教えてやっていて、今日はばらけてくれているから都合がいい。
 いつもの準備体操の後、体育教師からルール、打ってはいけない急所の場所などの二年でやった時のおさらいが軽くあって、じゃあ二人組になって練習と声が掛けられた時に、さっと、土方に近づき、
「せっかくだから、土方に教えてもらおうかな」
 と俺は感じよく言った。
 土方がにやりと笑う。望むところだってトコロなのだろう。

 最初はおとなしく、向かいあって、先生の合図に合わせておとなしく打ち込みなんかをしていた。
 授業の最後の方になって、じゃあ軽く試合をしてみようということになって、面をつけて、先生の声にあわせて礼をして、竹刀を構え、笛が鳴ると同時に、本気を出して打ち込んでやった。
 景気のいい音が響いてすかっとする。あっという真の一本だ。先生も皆も土方自身も呆然としている。
 三本勝負の二本目。土方も本気になって打ち込んでくる。が、軽く交わして、胴を一本だ。二本、ストレート先取。俺の勝ち。
「お前……」
 面を取って、土方が俺を睨む。
「剣道の経験があるのか?」
「俺、剣道二段(中学生で最高の段位)だから」
「なにーっっ。俺だって初段なのに!!!う、嘘つくな!!!お前みたいな奴に二段なんか取れる訳ないだろ!!!」
「じゃあ、剣道雑誌でも調べてみろよ?俺、五年連続で、少年の部全国一位だから。部活の県大会止まりのてめぇなんかに負ける訳がねーっての」
「なにーっっっ???」
 明らかに動転してる土方を横目に俺はかっかっかっと、でかい声で笑う。
 俺の母方のじいちゃんが、剣道の道場をやっているのだ。ワーキングマザーの母親に、毎日保育園や学校の後、預けられて、夕飯まで食わせてもらってた俺は、ずーっとそれこそ、剣の練習をしないと夕飯にありつけない、それはもう過酷な環境で育てられたのだ。