「な、な、な……」
 土方が怒りで震えてる。そしていきなり首根っこを掴まれる。
「なんで、部活に入らなかったんだ。お前がいたら全国大会に行けたかもしれないのに!!!」
 と突然、怒鳴られた。
「は〜?なんで俺が部活なんかに入らないといけないんだよ」
 毎日毎日、テスト前でも最低三時間は練習させられてるっていうのに、なんでまた学校で剣道なんかやんなきゃいけないんだよ。冗談じゃない。
 殴られそうになって、反射的に腕をひっぱって、思いっきり投げた。
 土方が派手に投げ飛ばされる。受け身も取れず、畳に叩きつけられた土方が、呆然と俺を見上げる。
「言っとくけど、俺、柔道も二段だから」
 俺のじいちゃんは、剣道だけじゃない。武道マニアだ。道場では、剣道だけじゃなく、柔道も空手も自分で教えてるほどの猛者だ。俺は小さい頃から、剣道、柔道、空手、少林寺拳法、居合い斬りなどなど、数々の武道という武道を叩き込まれて育ってきたのだ。ちなみに、空手も二段。その他全て、俺は黒帯所持者だ。自慢じゃないけど、俺は強い。っていうかうちに生まれたら強くならないと生き残れない。うちは父さんも母さんも現役バリバリの警察官で、二人とも剣道も柔道も黒帯なのだ。父さんも母さんも、警察で剣道を教えてる。そんな武道一家の家に生まれた俺は、勉強しろといわれる代わりに、練習しろと言われて育ってきた。拒否権なしでジュニアチャンピオン、協会の強化選手の道まっしぐらだ。
 目立つのが嫌なので、体育の授業では今までおとなしくして、剣道なんか知りませんって顔してたけども。
 中学でどうしても部活に入らなくちゃいけなくて、弓道部に入ったのは、弓道だけは数ある武道の中で、やったことがなかったからだ。
 やったことないから弓道部にする、と言ったらじいちゃんは喜んだ。そーいうじいちゃんなのだ。いろんな武道を経験してこそ、見えてくるものがある、と言う武道マニアのじいちゃんは、それこそプロレスだって大好きだ。
「お、おいおい、喧嘩するなよ……」
 体育の先生がおろおろしてる。

「すいませんでした」
 と土方が謝ってる。俺は殴りかかられた被害者だからもちろん謝らない。