「しかし凄いなー。全国一位なんて」
 と、その場にいた近藤が気を使って話しかけてくる。
「やっぱり子供のころから相当練習してきたんだろう?」
 近藤の質問に俺が答えるより早く、
「怠け者のコイツがまともに練習なんかする訳ないだろ」
 と土方が返事をする。あー、マジでムカつく。
「俺んち、武道一家なんだ。父ちゃんも母ちゃんも、警察で剣道と柔道教えてるし、じいちゃんも道場やってる。
それこそ、物心つく前から剣道も柔道もやらされてきたんだ」
「へー、じゃあ教えてくれる人には事欠かなかったんだな。いいなぁ〜」
 近藤が馬鹿みたいに感心しながら言う。
「ふーん。コネで二段が取れるとは知らなかったぜ」
 と土方が嫌味を言う。カチーン。
「コネで全国一位が取れると思ってんのかぁ?」
 一触即発の不穏な空気が流れる。
「まぁまぁまぁ」
 と近藤が間に入って宥める。
 くそ〜!!!もう一回投げ飛ばしてやりて〜!!! が、ここは公共の場なので我慢する。っつーか、夜道に気をつけろよ!!!
「とりあえず、武道一家に生まれるのもそんなに楽なもんじゃねーよ。練習しないと飯も食わせてもらえないし。朝なんか毎日五時起きだぜ?」
「だから学校でいつも寝てるのか…」
 近藤が苦笑いする。
「とにかく、中学から部活で剣道を始めて…とかいうのとは、全然違う世界に俺はいる訳よ」
 中学の部活の、学校の体育の範疇にある学校行事の「大会」と、連盟に所属して、師事している道場を代表して参加して行われる「大会」は全く別のものだ。
 両方やってる人もいるだろうが、俺は家でも学校でも剣道の練習なんて冗談じゃないので、剣道部には入らなかった。(入った弓道部にもマトモに通わなかった。)
「そうか〜、凄いな〜」
 馬鹿の近藤は大袈裟に感心してみせる。
「悪かったな、たかが中学の部活レベルで」
 と土方はまた嫌味を言う。
「事実だから仕方ないだろ?」
 あー、ほんとこいつムカつく。
 土方と正面切って睨み合う。
「とにかく、俺には部活やってる暇なんかなかったんだよ!!」
「暇がないだぁ?寝てばかりいるクセによく言うな!!」
「まぁまぁ。トシも、今更そんなこと言ったって、三年は部活引退した後なんだから仕方ないだろ〜?
 沖田、悪いな。雲の上の沖田からしたら、部活の剣道なんか大したことないんだろうけど、俺達さ、ほんとに全国行きたかったんだよ。
うちの学校、弱小だから中学から剣道始めた奴しかいないから、沖田みたいな…、子供の頃から道場でずっと剣道やってきた…、みたいな他校の奴らに、ほんとずっと敵わねぇできたもんだから、沖田見てるとコンプレックスが刺激されるんだよな」
「近藤、余計なこと言うな!!!」
 ふーん。つまんねー。
「強くなりたいなら、練習すりゃいーじゃん」
 こんなとこでやっかんでないでさ。
 俺だって、負けたことがない訳じゃない。ううん。違う。練習時間が長い分、人の何倍も負けまくってきた。だから負けたくなくて練習して、強くなったのだ。
「そりゃそうだ」
 と言って、近藤はがははと笑った。
 土方はずーっとぶすーっとした顔をしていた。