「そうだ。せっかくだから、俺が見てやろうか?」
「見てやろうかって何様だ、エラそうだな、お前は」
「どうせこの時間は、いつも俺が一人で道場使ってんだ。一緒に練習しようぜ。学校帰りなら、体操服持ってんだろ?防具は貸してやるよ」
土方の意思は無視して、準備を始める。
「勝手に決めんな!!」
「俺が練習する訳がないっててめぇは言ったけど、一回一緒にやってみりゃ俺が練習してないか、てめぇが負けたのがまぐれかどうか分かるだろ?」
「…………」
「今日はいくら打ち込んできてもいいぜ?俺から一本取りたいんだろ?」
俺がそういうと、土方はどさっと鞄を入り口の土間の上に置いた。
「どこで着替えればいい?」
「中でどうぞ。安心しろよ、着替え覗いたりはしないからさ」
「馬鹿かお前は」
「俺、自分の竹刀とって来る〜」
母屋に戻って、自分の竹刀とか、タオルや手ぬぐいなど、必要なものを取りに行く。
あー、俺がいない間に土方は逃げてるかもなぁ……、とふと思った。
まぁそれでもいいや。と鼻歌交じりで道場に戻ると、土方は体操服に着替えてまだ道場にいた。
ふーん……。
「まずは、準備体操からな〜」
俺はその場でピョンピョンとび始める。土方もつられて飛ぶけど、困ったような顔をしている。
この道場でみんなが一斉に行う一番最初に習う準備体操ってのがあるんだけども、当たり前だけど初めてきた土方には分からないわけで。
「じゃ、体育と同じ準備体操で」
と提案する。学校で体育でやるのと同じように、準備体操をする。
二人組になって、ストレッチまでやる。剣道は足を使うから、足のストレッチを念入りに行う。
土方の背中を押すと、
「いてててて」
と土方がうめく。
「かってーなぁ、体」
と俺は呆れたように言う。
ストレッチの後は素振り。
素振りを始めるとついつい無心になってしまう。
土方も俺についてやってたみたいだけど、気づくと土方が肩で息をしていた。しまった。
「あー、すまん。いつもこの三倍は素振りやってるもんだから」
「さ、三倍〜?」
土方がゼエゼエ言いながら、声をあげて驚く。
「つい、クセで」
俺はサラッと言って、
「ちょっと休憩しよ」
と声を掛けて、母屋に飲み物を取りに行った。
準備体操のつもりがすっかり、メインの運動になってしまった。失敗失敗。
やっぱまだ人に教えるのは下手だ。