グラスに氷と麦茶をなみなみついで、お盆の上に置いて運ぶ。零しそうになるので慎重に。
 最近のスポーツは、水飲むな、なんてスパルタなことは言わないから楽だ。小中学生の稽古でも、道場にも水筒やペットボトルの水を持ってくるように指導している。(減量とかの必要なスポーツはまた別なんだろうけども。)
 古い道場だからクーラーもないし、夏場は窓や出口を全開にしても、蒸し風呂みたいな暑さになる。こんな中で水も飲まずに一時間も稽古をしたら、小学生は熱射病で倒れてしまうだろう。

「ほい」
 と床に座り込んでへばってる土方に冷えて水滴についたグラスを渡す。
 土方はそれを無言で受け取り、一息に飲み干す。
 俺も近くに座って、お茶を飲む。
「久しぶりだから、体が鈍ってる」
 土方が言い訳みたいに言う。
 ま、確かに、もう三ヶ月以上、遠ざかってるんだろうから、体も鈍るだろうけども。
「剣道部って、顧問誰だっけか?」
 ふと聞いてみた。
「………銀八」
「あぁ、そりゃ駄目だ…」
 俺は納得して言う。
「あぁ見えて、あいつ強いんだぜ。本気になったら。
 段も何段か持ってる。自分ではっきり言わないから、正確にはわかんねーけど。多分、マジでやったらお前でも勝てねーよ」
「あー、まじでか?」
 強い銀八って、全く想像できない。
「ただし本気になること自体が滅多にないけどなー。朝練とかやりたくても、先生のクセに、サボろうぜが一番の口癖で困る……」
 土方が愚痴みたいにぶつぶつ呟く。
「言うだろうなぁ……銀八なら……」
 リアルに想像が出来る。
「顧問のクセに、今時、剣道やりたいなんて、はやんねーよ、無意味だ、とか一番最初に言うんだぜ?」
「そりゃ部員も集まんねーな」
 俺は思わず苦笑いする。