「んー、しかし剣道やる意味かー。そもそも意味なんてあんのかなー」
「てめぇがそれを言うなよ。チャンピオンなんだろーが?」
「俺には拒否権なかったもん。気づいたらやらされてたし。
 物心ついた頃から、ちょっと年が上の奴らとかに毎日ボコボコに負け続けたら、そりゃ悔しくて強くなろうって思うぜぃ?
 剣道はなー。やってもほんと役に立たないからなー。実際、柔道とか空手とかのがよっぽど役に立つって実感できるもんなー。
 ま、俺の場合は、道場継げるっていう意味で、職業訓練に近いもんがあるから、そこそこ役に立つんだろうけどさ。
 土方は中学から始めたんだろ?なんで剣道なんか始めた訳?」
「…………何でかなぁ」
 土方が首をひねる。
「部活の中では、自分に一番合ってるような気がしたから、かな。
 やってみたら面白かったから、続いたんだろうけど」
 と土方がぶつぶつ言う。
「剣道面白いもんな〜。俺なんかチビだし、細いから、空手とか柔道だと、やっぱり体格差って奴をどーしても感じることがあるけど、剣道だと、体格関係なく勝てるし。練習の量が結果に目に見えて出るしな。 空手も柔道も合気道も、それぞれ面白いけど。やっぱり剣道が一番面白いかな。スパーンと決まるとやっぱ気持ち良いし。分かるようになると、型とか居合いとか演舞とかほんと綺麗だしさー。やればやるほど、今度はアレができるようになりたいって思うよなー」
 うんうんと土方が珍しく素直に頷く。
「ま、やってみないと、剣道の面白さってわかんないよな。結局のところ」
「そうだろうな。上手く説明できない。でも剣道やってて、一生の友達が出来たり、可愛い後輩が出来たり、やっぱりかけがえのないものを得たと思う」
 土方らしい優等生な答えだ。

 一生の友達ねぇ……。
 俺はいつも自分より凄い年上の先輩達や大人達と練習してきたから、「仲間」って感じの友達はいなかった気がする。
 強いからって、同年代からは嫌な奴って言われてたし。館長の孫ってことで、俺はいつでも、大人からも子供からも特別扱いされてた。
 じいちゃんは俺には特別厳しく躾けられたし、じいちゃん以外の先生からは、やっぱり一目置かれたし、同年代の子供達からは、ひいきされてるって煙たがられた。
 正直うざいことも多かったけど、全部、見ないふりしてやってきた。
 それで良いと思ってたけど、俺は同年代より、大人たちに囲まれてる方が好きだったし。学校でも一匹狼で全然平気だった。
 土方や委員長の志村がいつも一人で勝手な行動してる俺を見ていて、イライラするのはなんか分かる気がした。あまりに育ってきた環境と価値観が違うんだ、多分。
 そりゃ、一生の友達を作るとか、そーいうのも多分、とてもイイモノなんだろうけど。俺の置かれた環境でそれに重きを置いていたら、きっとやっていられなかったと思う。
 土方には想像できないだろうけど。まぁ分かって貰いたいとも思わないけど。  


 でも、普段全然話噛み合わないし、顔を合わせれば毎回喧嘩してるくらいなのに、剣道の面白さが分かる、とか(分からない奴のが世の中の大多数だ)、剣道に関してだけ意見が合うなんて、やっぱり剣道って面白いなぁ、と思った。