「ばあちゃんくらいかなー。俺に勉強しろって言うのは。
 教科書とか全部、いつもじいちゃんちに置いておいて、朝、かばんに詰めるんだけど、毎日毎日、帰めうとすると持って帰って勉強しろって、怒る怒る」
「教科書、家に全く置いてないのか〜?」
「テストの時だけは持って帰るけど、さすがに」
「宿題は?」
「あんまやらないけど、絶対やらなきゃいけないものは、じいちゃんちにいる時にやる。
 剣道やってる大人って、なんでか学校の先生が多いから、分からなかったら教えてくれるし」
「……………」
 土方が呆れた様子で黙り込む。
「……ほんっとお前って変わってんな」
 と土方がしみじみと言った。
「そうか〜?」
 まぁ、確かに、多少と言わず、自分でもかなり変わってる自信あるけど。
 そうこうしてるうちに、落ち着いた高級住宅街のでかくて綺麗な家の前で止まった。
「土方の家ってここ〜?金持ち〜」
「お前んちだって、すげー広いじゃねーか。道場が二つあって」
「ちげーよ。あれは、じいちゃんち。俺んちは官舎だもん。公務員住宅。古くてせまーい2DKの団地」
 自転車の後ろから降りて、土方から自転車のハンドルを受け取る。
「じゃ」
 と言って、自転車にまたがった。
「今日はありがと。ご馳走様。おやすみ」
 だってさ。土方にお礼言われるなんて、びっくりした。
「いやいや、ばあちゃんのわがままにつき合わせてこっちこそ悪かった。おやすみ」
 そういって、軽く手を振って、別れた。

 夜の町を、自分の家まで自転車を漕ぐ。
 そいや、土方が道場に見学に来たのって、今日体育で俺がもっと練習すりゃいーじゃんって言ったからか?

 単純な奴だ。
 しかし、悪い奴じゃないのかも。