遺体の引渡しの当番は、座ってるだけだから楽だが、辛気臭くていけねぇや。

「あんたぁぁぁああ!!!」
 と遺体にしがみついて泣き叫ぶ髪を振り乱した女が一人。
「とうちゃーん!!!」
 ガキがギャーギャー泣き叫ぶ声が二日酔いの頭に響く。

「さぁさ、とっとと連れて帰っておくんなせぇ。足がなけりゃ葬儀屋の手配はこっちでするよ」
 俺は事務的に対応する。
「人一人死んでんだよ!!!あんた、血も涙もないのかい?人殺しぃぃぃいい!!!」
 と女房らしい女が叫ぶ。
「んなこと言ったって堅気の人間14人も巻き込んだ爆弾テロリストの人殺しだから、あんたの旦那。
 生きてしょっぴかれたって絞首刑は免れないよー。っていうか、生きてたら遺族に慰謝料払わなきゃいけないってんで、あんた今頃借金地獄だよ。良かったね〜、死んでくれて。死ねば罪はチャラだ。借金地獄な上に、死刑よりずーっとマシだろぃ?うちらに感謝して貰いたいねぇ」
 と俺がさらっと言うと、
「あんた血も涙もないのかぃ!!この人殺し!!!」
 と涙だか鼻水だかで汚れたきたねぇ手で掴み掛られた。
「それ以上、やったら公務執行妨害でおまわりさん逮捕しちゃうよ〜」
「人でなしの人殺し!!!」
 捕まれた手を振り払う。
「俺が人殺しだったら、あんたはテロリストの女房だろぃ。とっとと遺体とガキ連れてけえんな。あんたの亭主が殺した14人の被害者の家族が、慰謝料よこせとここにやってくる前にな。
 っつーかそろそろやってくるぜ〜。敵は取ったと連絡したら、家族を殺した憎いテロリストの面が拝みてぇっていきまいてたからなぁ。女房子供を殺された旦那なんかは、犯人とっ捕まえて俺の手で殺してやるって耳にタコが出来るくらい言ってたっけなぁ?あんたこんな所でぼやぼやしてっと、ガキもろとも袋叩きに会うぜぇ?」
 俺の台詞に顔色が変わる。女って奴は何時の時代も現金だ。
「ぎゃぁぁぁぁあ、とうちゃーん!!!」
 今だ、ギャーギャー泣き叫ぶガキに、「おだまりっ。帰るよ!!」と一喝する。
「で、どーすんの?送るの?連れて帰る?」
 と俺が書類をピラピラ見せながら言うと、俺が持っていた書類を奪い取るようにして、必要事項と住所を書き、 「ここに送って。うちの住所、絶対誰にもばらさないでよ!!!」
 と強く念を押して、ガキの手を引いて背中を向ける。
「毎度〜。霊柩車代着払いだから支払い一括でよろしく〜」
 まったく俺の仕事は葬儀屋かってんだ。
「地獄に落ちろ!!!」
 と怒鳴り返された。
 んなこた今更、言われなくったって、天国に行けるなんざ思ってねぇよ。