「一郎〜!!!あんたなんでこんな馬鹿なことをぉおお!!!」
 っと、さっきから遺体に取りすがって泣き叫び続けるばーさんが一人。

 木の股から産まれてくる奴はいねぇ。女房、子供はいなくても、親はテロリストにだって平等にいるもんだ。
 毎度、メロドラマに付き合わされるこっちは調子が狂う。

「ばーさんの息子は、爆弾テロでもう何人も罪もない一般市民を巻き込んでんの。それで何人も死んでんの。昨日も、うちの連中も二人ばかり大怪我したんだぜぃ。分かる?」
 と一応、保身のためのキマリゴトの説明をする。
「本当にうちの馬鹿息子が申し訳ありません!!!申し訳ありません!!!」
 と老婆が地面に頭こすり付けて土下座して泣きながら謝る。
「生きてしょっぴかれてたら、死刑は免れない上に遺族への賠償金問題でばーさんも大変だっただろうけど、死んだら無罪放免だ。とっとと息子連れて帰りな」
「申し訳ありません!!!本当に申し訳ありません!!!うちの馬鹿息子のせいで亡くなったご家族の方に、なんて謝れば良いのやら……」  

 と老婆は土間に顔を擦り付け、涙と鼻水と泥の混ざったひどい顔で号泣しながら俺の足元に這い蹲り続ける。
 行方知れずの放蕩息子から、十年ぶりに連絡があったと思ったら、警察からの死体の身元確認の連絡だ。
 やれやれ、テロリストたぁ、とんだ親不孝者だねぃ。やっぱそうそうなるもんじゃねぇや。
 仕方なく自分の手ぬぐいを出して、這い蹲るばーさんの上に放り投げて、部屋の外に出て、ドアにもたれてため息をつく。
 ドアの中からは、ばーさんの搾り出すようなすすり泣く声が息子を呼ぶ声と共に聞こえてくる。

 やれやれ本当に因果な商売だ。
 土下座で謝られるより、人殺しと罵られる方がよっぽど楽だ。


 ばーさんは一時間近く息子の死体にすがり付いて泣き続け、去る時に、俺に向かって、
「これ、洗って返しますから」
 と俺に向かって、深々と白髪頭を下げながら言った。
「いいよ。やるから。もってきな」
「すいません。本当にうちの馬鹿息子が申し訳ありませんでした。あんなことする子じゃなかったんです。昔は虫も殺せないような優しい子で…」
 ばーさんの目にまた涙があふれる。
 やれやれ、話が長くなりそうだ。
「みんな、そう言うんだよ。どんな大犯罪者も、ガキのうちは正義感の強い優しいガキなんだ」
 なんせ、こんな血に塗れた俺だってガキの頃は、正義感の強い優しい子だったと言われるんだ。
 それがどう転んで、俺もばーさんの息子も、こんなになっちまったのかねぇ……?
 まぁ、不必要に正義感が強いから、テロリストなんかやってるんだろうが。

「ご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。本当に本当に申し訳ありませんでした」
 とばーさんは懲りずに何度も俺に謝る。
「まぁ気を落とさずに。体には気をつけな」
 と声を掛ける。


 俺に謝まるのは筋違いってもんだぜ、ばーさん。
 あんたの大事な息子にトドメを差したのは、この俺だ。