頭では嫌ほど理解している。残されてる時間はあと少しだってのは。
それでも俺は、やはりその時が来たら、みっともなく取り乱すのだろうか?
冷たくなった姉上に取りすがって地べたにはいつくばって、人目も憚らず号泣するのだろうか?
遺体を引き取りに来るあの俺達に始末されたテロリストどもの家族達のように。
「だから、あんたの息子を引き取りに来いって!!保管期間過ぎてんだから!!!」
と俺は電話口に向かって怒鳴る。
「うちの息子は三年前に死んだ!!!なんかの間違いだ!!!」
と怒鳴り返され、派手に電話を叩き切られる。
やれやれ。
家族が見つかって連絡しても、一族から犯罪者を出す訳には行かないとか、世間様に顔向けできないとか言って、遺体の引き取りに来ない肉親も多い。
そりゃ死んだ奴より、生き残ってる奴らの体面のが大事だ。
そう言った遺体は、保管期間内を過ぎれば、無縁仏として荼毘に臥され、そーいった引き取り手のない奴らを入れるためにお上の金で作られた集団墓に入れられる。
そして、一年に一回、キマリごととして、法事を行う。参列者は俺達みたいな関係者、いわゆる公僕しかいない。一応、手を合わせてはいるが、坊さんの読むお経にあくびをし、しびれる正座が苦痛で仕方ないから、法事に出ないで済むその日の通常勤務を奪い合う。そんなおざなりな法事だ。それ以外は、普段、誰も訪れることのないような寂しい墓だ。
いや、誰も訪れることがないってことはなかった。
俺はそんなめんどくせぇことはいちいちしねぇが、バチが怖いのか何なのか、自分が斬り殺した奴を参るために、隊員が人目を盗んでこっそりと訪れている。大規模な御用改めがあって、沢山の死者が出た日なんかは、毎年わざわざ御用改めのあった日、つまり命日を覚えていて墓参りにくる隊員同士が墓の前で顔を合わせることなんかもあるらしい。
備えられるのは大抵安い酒か煙草だ。花を持ってくるような気の利いた奴はいねぇ。
割と政治的に名のある奴でも、オトナの事情で無縁仏として処理されるケースもあり、昔馴染みがいるとかなんだとかで、局長の近藤さんも割と頻繁に酒を持って行っていたはずだ。
副長の土方さんはそんなメンドクサイことはしない。墓参りは年に一度で十分だそうだ。
ちなみに殉職する隊士達が一同に眠る墓も場所は離れているとはいえ、同じ寺の敷地内にある。
命を賭けて真剣使って斬り合っていた奴らがまとめて一緒に眠っているのだ。
あの世や霊を信じてる訳じゃねぇが、奇妙な話だと思う。さして信心深くない俺でも、それじゃ穏やかに寝れねぇんじゃねぇの?と思う。
隊士達の墓には、割と頻繁に生き残った隊士達が墓参りしている。
墓前に酒と煙草が絶えることはない。まるで古い友達を訪ねるように、隊員達はことあるごとに、そこを訪れるのだ。