死があまりに身近すぎる。
 隊の部下が死んでも、もういちいち、涙も出やしねぇ。
 胸の中にすーっと風が抜けていくような、何かがまた欠けた、そんな感じがするだけだ。



 あー、だりぃなぁ。
 座ってんのは性にあわねぇ。腕が立つ俺は御用改めや要人のボディーガードなどの荒事が本職だ。そんな訳で荒事のない時は、詰所の中で過ごすことが多い。俺の命を狙ってる奴も多いから、下手に外に出て、仕事を増やすよりはってことで、合わないデスクワークなんぞをさせられている。
 しかし、座ってるとすぐに眠くなってくる。死体と同じ部屋にいても、感覚が麻痺してる俺は、すぐに寝れる。
 どうせ今日はもう訪ねてくる人はいないだろう…と、寝ようと思って目を瞑ったら、すぐにドアのノックの音がして、仕方なく目を開ける。
 今日はもう面会の約束はなかったはずだが……。
「へーい」
 と返事をすると、ドアが開き、中年の女性が若い娘をつれて顔を出す。
「どちらさま?」
「あの……お電話頂きまして……」
「あー、身内の人?」
 とファイルを広げる。
「主人が許さないのでこっそり……最後の挨拶だけでもさせてもらおうと思いまして………」
 と呟く声が震えていた。
「あー……」
 厄介だ。顔だけ見に来て、引き取っては貰えないのか……。やれやれ。
「どちら様?」
「柿本の……」
「はいはい。奥のベッドの右ね〜」
 と俺はファイルから目を離さず、投げやりに言うと、ベッドに駆け寄り、顔に被せられた白い布をめくり、息を飲むような悲鳴を上げ、母娘らしき二人は抱き合ってもたれあうようにして、泣き始めた。


「間違いないね?」
 と聞くと、
「間違いありません……」
 と泣きながら呟く。
「ほんとは引き取って貰いたいんだけどねぇ……」
 と俺が嫌味っぽく言うと、
「すいません……」
 泣きながらしおらしく答える。良い着物を着ている。おそらく良い家の奥様なのだろう。