「奥さん、引き取り手のない犯罪者の遺体の末路知ってる〜?ひどいよ〜?
 大学にまわされて、医学生の実験台としてさんざメスで切り刻まれて、臓器はホルマリン漬けにされて、残った使えない所だけ荼毘に臥されて、他の犯罪者とまとめて無縁墓に入れられるんだぜぃ?息子さんも浮かばれねぇよなぁ?」
 引き取り手のない遺体で状態の良いものは献体に回される。
 せめて最後の最後くらいは人の役に立てってことだ。
「そんな……」
 と母親の方が青ざめ、
「ひ、酷いじゃない!!」
 と娘の方が怒鳴り出す。
「んなこと人に言えた義理かい。
 血のつながった息子の遺体を体面のが大事で引き取らねぇ方がやってることは酷いんだよ。
 っつーか、三年前に死んでんだろ?あんたの息子は。ここにあんのは、身元不明の遺体だ。あんたの息子じゃねぇ。文句言える筋合いじゃねぇだろ?
 焼くのも墓にいれんのも、坊さんがお経読むのもタダじゃねぇんだ。誰が金出すと思ってんだよ。お上だよ、お上。税金だ。こいつは下手な学生さん達に死んだ後も切り刻まれて、お国の役に立って自分の葬式代稼ぐんだよ」
 娘の方がぐっと唇をかみ締めて、俺を睨む。年齢から察すると、姉だろう。
「さぁ、とっとと帰ってくんな。
 ここ、関係者以外立ち入り禁止なもんで〜」
 と俺が手を振りながら言うと、母親が号泣し始め、遺体の手を握り締めて、
「ヨウちゃん、ごめんね〜。お母さん、ヨウちゃんを連れて帰ってあげられなくてほんとにごめんね〜」
 と嗚咽をあげて、泣きながら繰り返し繰り返し謝っていた。
 それを見て、姉らしき女も、足元にすがりついて泣き始める。
「馬鹿……ほんと馬鹿だよ……ヨウ」
「ヨウちゃん、ごめんね。駄目なお母さんでごめんね〜」
 女の泣き声が響く。

 やれやれ。安いメロドラマだ。
 本当にイライラする。

 俺の姉上なら、絶対に悲劇のヒロインのように泣くだけで許しを請うておしまいで、責任は一切取らないなんて、そんなことはしないだろう。
 俺の姉上なら……。 

 安いメロドラマを見させられるのは本当に苦痛だ。

「そろそろここの面会時間おしまいなんで〜」
 とワザと能天気な声で声を掛けると、泣きはらした顔で顔を上げる。
「明日の10時にはソイツ移動させちゃうんで、それまでに気が変わったら引き取りよろしくってことで」
 と言って、ドアを開く。
 あーもう、とっとと出てってくれや。