姉の方はあからさまに不満げな顔をしている。
「なによ!!こっちは最期の別れなのよ!!!」
 と怒鳴られた。
「あんたら、そいつとは赤の他人なんだろ?
 ここは関係者以外立ち入り禁止だって言ってんだろぃ?こちとら善意で入れてやったんだ。感謝しろぃ。とっととけえんな」
「ほんとに血も涙もないのね!!!
 ヨウを殺した人殺しの仲間のくせに!!!」
「おいおい、ねーちゃん。あんたの弟が何やったかわかって言ってんの?
 市中で堅気の連中巻き込んで爆弾や拳銃ぶっ放した無差別テロの実行犯だぞ。政府の要人何人も殺してんだぞ、そいつとそいつの仲間達は。
 そいつのせいで何人、人が死んで、その被害者にどんだけ家族がいると思ってんの?
 生きてたって確実に死刑だったんだよ、そいつは。市中テロが今、問答無用で極刑なのは新聞読んでりゃ知ってんだろぃ?
 死んで片が付いて良かっただろ?もしそいつが生きてたら、被害者への賠償請求もそいつの裁判費用も全部あんたん家に行ってたぜ。今頃、被害者の家族がまとめてあんたん家に慰謝料やら生活費やら見舞金よこせと押しかけてるぜ。一家離散の夜逃げコースだ。ねーちゃんもテロリストの肉親だって、嫁にいけないか、離縁されて追い返されるかのどっちかだ。
 死人に口がないから、あんた達は堂々としらばっくれられるんだぜ?そいつが生きてたら、主人が許さないからとかなんとか悠長なことは言ってられねぇんだ。
 そいつの後始末してやった俺達に感謝して貰いたいくらいだねぇ」
 勢いよくその若い女が手をあげる。平手打ちされる前にその細い手首をがしっと掴む。
「公務執行妨害で逮捕すんぞ、コラァ」
 とイライラしてる俺は本気で怒鳴りつけて女を近距離で睨むと、ビビッたのか息を呑んで顔色を変える。
「………それでも……」
 と母親の方が突然呟いた。
「それでも生きていて欲しかった……」
 と呟いて、目頭をハンカチで押さえた。
「とっととけえんな」
 と言うと、
「大変ご迷惑をおかけいたしました」
 と言って、母親の方が深々と頭を下げる。娘の方はまだ不満げな顔をしている。
「これ少ないですが……」
 と言って、白い封筒を取り出して俺に渡そうとするが、
「んなもんあんたらから受け取ったら、こっちは収賄で新聞沙汰でぃ。とっととけぇんな」
 と当然、俺は相手にしない。部屋を出る時、母親が、
「あの子は、どこに葬られるのでしょうか?」
 と聞いた。
「教えられねぇ決まりでな」
 とつれなく答える。(ただし、決まりは本当だ。)


 親より先に死ぬってのは、やっぱり親不孝なことであるらしい。

 翌日、思い直して引き取りに来るかと少し思ったが、結局、来なかった。まぁそんなものだ。