姉上とは違い、汚れまくってる俺はあの男と何度か寝ている。



 あれは、隊結束間もない頃の話で、まだ辻斬りまがいの暗殺や、強盗まがいの討ち入りを繰り返していた、命が幾らあっても足りねぇ、今よりもはるかに血生臭ぇ頃の話だ。

 腕が立つ俺と土方さんは、選ばれて、倒幕運動の奴らが集まるって噂の安い連れ込み宿に、何時来るのかわからねぇ奴らを待って張り込んでいた。
 向こうは集団で、しかも腕が立つって有名な侍が何人もいて、俺と土方さんはその仕事を請けたと同時にてめぇが死ぬのを覚悟していた。
 死んでもいいから、何人か道連れすればいい。出来るだけエラそうな奴を狙え。
 近藤さんが聞いたら、絶対やめろというようなもっと上の上から秘密裏に回ってきた闇の仕事だ。

 俺はまだ十四、十五そこそこの血走ったガキで、それでもまぁ、状況が分からないほどガキではなかったから、自分がここで死ぬんだな、ということは分かってた。
 こんな仕事をしていて、いつ死んでもおかしくねぇことは覚悟していたが、姉上より先に死ぬってことだけがただ重かった。

 壁にもたれて聞き耳を立てて、安宿の様子を伺う神経はピーンと張り詰めていた。
 連れ込み宿でやることなんか一つだ。両隣の部屋から女が派手にあえぐ声と男が低くうめく声が絶え間なく続いていた。安普請の床は、ギシギシと音を立ててかすかに揺れる。布団も畳みも体液が沁み込んだような咽るような濃い「人」の匂いがする。興奮するというより何もかもが癇に障る場所だ。
 交代で見張りをしていたから、俺が起きてる代わりに土方さんは寝ていた。よくこんな所で寝れるもんだ。
 もう張り込みは二日を経過していたが、俺は横になっても全然眠れず、気だけがただとにかく急いでいたのを覚えている。

 隣の部屋の女のあえぎ声が甲高くて短い悲鳴に変わる。
「………うっせぇなぁ……」
 と土方さんが目を瞑ったまま、呟く。本当に煩い。隣の部屋の客は短時間で入れ替わっているようだが、よくもまぁ飽きずに日夜問わずやれるものだ、と思う。
 むくっと起き上がると、
「やれやれ目が覚めちまった。
 総悟、代ってやるからてめぇは休め」
 とふーっと大きなため息をつきながら言った。
「よくこんな所でぐーすか寝れますねぃ?」
 と俺は呆れながら言った。
「なんだ?ガキには刺激が強すぎたか?」
 と、俺をガキ扱いする土方さんはいやらしく笑った。やれやれ。
「よく明日死ぬって時に、ぐーすか寝てられっすねぃ?」
 と俺はため息交じりで繰り返した。
 土方さんは無言のままだ。んな訳ねぇだろ、と訂正はしてくれない。土方さんも現状は正しく把握してるってことだ。