近づいてきた土方さんのマジな顔が何だかおかしくて、俺はずーっとヘラヘラ笑っていて、
「笑うな。目を瞑れ」
 といつもの偉そうな仏頂面で言われた。
 今、思い出すとその時の俺は、緊張に次ぐ緊張の連続で磨り減って、少しマトモじゃなかったんだと思う。

 肩をぎゅっとつかまれ、言われた通りに目を瞑る。唇に一瞬、体温を感じると、すぐに離れた。
 なんだ、こんなものか、と思った。当たり前だが、触れるだけのキスは甘くも辛くもなんともない。現実なんか何時だってあっけなくて、こんなものだ。

 目を開けてもまだ土方さんの顔が凄く近くにあって、
「口を開けろ」
 と馬鹿にしたように言われた。
「へ?」
 と聞き返す間もなく、強く唇に吸い付かれた。同時に生温かい舌が潜り込んできて、息苦しくなった。
 舌と舌が絡むと煙草の苦い味が強くして、一瞬気が遠くなった。
 俺に一から教えるつもりなのか、あらゆる角度、あらゆる深度を試すように貪欲な、それこそ永遠に続くんじゃねぇかってほどの、長い長い口付けだった。俺はただ、息を継ぐだけで必死で、酸欠で頭は真っ白だった。

 背中に回っていたはずの土方さんの大きな手が、何時の間にか着物の隙間から入ってきた。薄い胸を撫でられるとそれだけでビクッと全身に鳥肌が立つ。
 肩から着物がずれ落ち、気づくともう半分脱がされていた。
 そのまま押し倒されて、床に背をついて転がる。ぎゅっと抱きしめられ、唇を強く吸い上げられ、土方さんの首に腕を回す。なんだかもうぐちゃぐちゃのドロドロで息を継ぐだけで必死で、苦しくて涙まで出てきた。
 キスは息苦しくて死ぬんじゃねぇかってほど、苦しい。

 しかし、いったい何時まで続くんだ?


 俺に掛かる土方さんの荒い息に気づく。アツくなってやがる。
 俺は無抵抗に、されたままでいながらもどこか他人事だ。
 立て付けの悪いぼろい連れ込み宿の雨戸からは細く強い日差しが差し込む。あぁ、外はいい天気だな。
 俺を逃がすまいとしているのか、全体重を掛けて押さえ込まれ、強く握られた腕が痛む。そんなに体重掛けてこなくても、俺は逃げないっての。
 胸にしゃぶりつかれて、思わず変な声が出た。
 一瞬、ギクッとしたが、相変わらず隣の部屋からは、女の派手な嬌声が響いているし、そもそもここはそういう場所だ。
 多少、声が出たってかまやしねぇだろ、と無理に堪えるのをやめた。

 ぐいっと無理やり足を開かされて、あぁ、マジで最後までやる気なんだ、と気づいた。
 でも、もうなんでもいいや、と思った。どうせ明日にはこの世にはいないんだし。