俺は思ったまんまのことしか言わねぇ。

 いい年になってもお世辞の一つも言えねぇし、不満を腹に溜めとくこともできねぇ。

 何でもかんでもぺろっと口に出して、それでよく、もっと大人になれよと近藤さんや土方さんに叱られる。


「旦那はオンナにモテんでしょうねぇ…」
 と俺はぽろっと言った。
 ふとそう思ったからだ。なんとなく。
 その言葉に、
「は〜〜〜???」
 と同時に何重もの派手な奇声が上がった。


 俺は仕事をサボりたくなると、よくこの万事屋に入り浸っていた。
 何時来ても、そこに客の姿はなく閑古鳥が鳴いていたが、この万事屋の主人である旦那の周りには、いつも客ではない誰かがいて、それぞれが漫画を読んだり、テレビを見たりと好きなことをして、だらーっと非生産的で気ままな時間を過ごしていた。
 何かそこに楽しいことがある、ということもなければ、もてなされる訳でも、部屋が快適な訳でもないのだが、なんとなく居心地がいいのだろう。

 俺が顔を出しても、
「またサボりかよ、公僕がこんなとこで油売ってていいのかぁ?ほんとにお前、税金泥棒だなぁ?」
 とか何とか呆れ顔でぼやきながらも、積極的に俺を追い出そうとはしない。
 俺も、
「いいんすよ。俺はこーみえて旦那の見張りをしてんすから。仕事中っす」
 とか古い畳に寝転がったまんま、適当に答える。
 実際に、江戸で騒ぎがある度に、そこにこの旦那の影があったせいで、旦那はすっかり政治的にも犯罪的にも要注意人物になっていた。特に攘夷浪士の奴らと繋がってるんじゃないかとずっとお上から疑われている。
 実際、俺がこの万事屋に関わるのを、示しがつかねぇと頭の固い土方さんに何度も辞めろと忠告された。土方さんの言うことには、いちいち反抗したくなる俺は、勿論そんな忠告は素直に聞かない訳なんだが。
 隊の方ではどうしても動けない時なんかには、何度かこの万事屋に仕事を依頼したこともある。
 仕事が出来るとか信用できるって訳じゃあないが、殺そうとしても死なねぇ腕っ節の強さだけには信頼が置けたので、俺達が通常扱うような荒事を依頼するには適任な便利屋だった。
 仕事柄、敵が多くてやたら物騒な俺は、自分の身も守れないような弱い奴とはつきあえねぇ。そーいう意味では、旦那も旦那の周りにいる奴も、やたら腕の立つ奴らばかりだったから、向こうの身の安全を心配せずに済む、という点ではつきあうのが凄く楽だった。