ガーガーと近藤のすげぇいびきが障子を一枚隔てていても聞こえる。
酒を飲んだ後は、特に煩い。昨日はどこかで呼ばれて、飲んで帰ってきた。
全く寝れやしない。俺は薄い布団の中でため息をつく。
その時、障子が開いた。慌てて飛び起きて身構える。
総悟が青白い顔をして立っていた。相変わらずもやしのように細い。
「なんだ、総悟か。寝れねーのか?」
総悟は、いつも近藤の布団で近藤と一緒に寝ていた。
「ま、確かに、このいびきじゃ煩くて寝れねーよな」
俺の言葉に返事もせずに、幽霊のように音もなく歩いて、俺の布団に入ってきて、目を瞑る。
「お前な、布団に入れて欲しいなら、お願いしますとか何とか言えよな」
俺は呆れて呟く。しかしガキの総悟は涼しい顔で、目を瞑ったまま、頷きもしない。
俺は深くため息をつき、仕方なく、再度寝転がる。
ガキの体温は熱い。総悟の柔らかい猫みたいな髪が、頬に当たってくすぐったい。身動きされるとくしゃみが出そうだ。
明け方、目が覚めると、総悟はいなかった。
もう起きたのかと思ったら、総悟は夜明け前に近藤の布団に戻っていた。本当に猫みたいな奴だ。
それからも何度か、近藤のいびきが煩くてたまらない時、総悟は黙って、俺の布団に忍び込んできたが、夜明け前にはいなかった。
とりあえず、自分の飼い主は、近藤だと認めているようだ。
そういえば、幾ら寝ろと言っても、近藤が帰ってくるまでは布団に入らなかった。
玄関でじっと膝を抱えて、近藤が帰ってくるのを待っている。
何を考えているのか分からないが、少なくとも本物の馬鹿ではなさそうだ。