道場にはひっきりなしに子供達が通ってきた。
 そういう意味では、総悟は遊び相手には不自由しなかったはずだ。
 近藤は総悟にも、他の子供達と同じように机を並べて読み書きを教えた。

 子供達は庭で、木の枝を振り回して、ちゃんばら遊びをする。
 ヒーローは維新志士、悪役は勿論、天人だ。
「俺、西郷やる〜」
「俺、桂〜」
 後に歴史に埋もれ表舞台から姿を消した者、過激派テロリストとして俺達に追われる身となったものが、当時はまだ子供達の英雄、ちゃんばら遊びの主役だった。
 道場に通う子供達より幼く、ただでさえ自己主張の少ない総悟はいつも斬られ役の天人役だった。
 正義の味方がいただけ、良い時代だったのかもしれない。
 今や、正義の味方はどこにもいない。
 維新志士の英雄は今や反社会的なテロリストだし、勿論、それらを取り締まる腰抜け幕府の犬と見下される俺達が、英雄と称えられる訳でもない。結果的に奇跡的な文明開化を与えてくれた天人達は、今も昔も変わらず嫌われ者だ。
 英雄のいなくなった現代では、今やちゃんばら遊びは、滅びた遊びなのかもしれない。

「オノレ!!!戸井布卯怒留(トイプードル)星人め!!!とりゃーっっっ!!!」
 叫びながら木の枝を振り下ろす。
「や、やられた〜!!!」
 斬られ役のガキがバタンと倒れる。
 総悟はいつも、斬られても何一つリアクションせずに、一度その場にしゃがみこみ、それから行儀よく地面に手をついてうつぶせになるので、仲間達に不評だった。
「お前、斬られたら叫ぶとか何とかしろよなー!!!!」
 よく、年長の子供に怒鳴られていた。
「こいつと遊んでも面白くないから外に行こうぜ〜」
 ちゃんばら遊びに飽きた子供達がぞろぞろと庭を出て行く。
 総悟はついていかない。
 いつもぽつんと一人庭に残される。