「たまには総悟にも志士役をやらせてやってくれよ〜」
 と見かねた近藤が子供達に頼んでいた。
「やだ、こいつよえーもん」
 全く相手にされない。子供の世界も弱肉強食だ。

 見かねた近藤は、総悟に剣を教えることにしたようだ。子供用の小さい木刀を用意し、総悟に与えた。
 道場に総悟を正座させ、「剣は心・技・体を鍛えてだなぁ」などといつものうんちくを並べる。剣は良い、己を鍛えるためにある、とかそーいう話だ。やれやれ。
 廃刀令の後の話だ。剣の道場は、体を鍛え、健康を保つ、健全なスポーツとしてしか、人に教えることが出来なくなった。
 名目上、「武士」という身分も職業もなくなったから、今まで剣を習うというのは武士の子に限定されてきた特権みたいなものだったのだが、今じゃ「剣道をやれぱ姿勢が良くなる」とか、「礼儀を覚える」とか、そんなカルチャースクール的付加価値をつけないと生き残れない。
 実際、剣道を習うより、算盤(そろばん)を習わせた方が良いという親も多く、文字書きを習うついで、とか、物騒になってきたから子供にも護身術を、みたいな感じで、道場には「少しばかり剣を習う」子供達が数人いる、くらいだ。

 道場の生き残り、商魂としては、そーいう大義名分、欺瞞って奴も必要だが、うちの子である総悟にはそんなもの必要ないだろう。