「ちげぇだろ。剣は敵を切り、己の身を守るためにあるんだろ?嘘、教えんな」
 ガキの稽古には興味がねぇ。傍観者を決め込んでいたが、見かねて俺は口を出した。
「トシ!!」
「総悟、てめぇ、強くなんねーと、ここから一歩も出れねーまんまだぞ。
 死にたくねーだろ?てめぇの身はてめぇで守れるようになれ。いいな?」
 総悟は相変わらず、夢から覚めたばかりみたいな色のない惚けた顔をしていたが、じっと俺の顔を見た後、うんと小さく頷いた。
 俺の言葉に総悟が素直に頷くのを見るのはそれが初めてだった。
「総悟、トシの言うことは気にするな。まずは体を強くしないと駄目だからな〜。いっぱい飯食って、沢山寝てだな…」
 近藤は必死でその場を取り付くっていた。
 でも総悟は、近藤の方をみずに俺の方を向いていた。
「教えてくれる?」
 と、総悟はあの色のない眼で俺を見上げて聞いた。
「お前がそれなりに強くなったらな。
 まずは近藤に基礎をきっちり教えてもらえや。ガキに教えるのは、俺よりソイツのが上手いからな」
 総悟はまた小さく頷いて、今度は近藤を見て、そして、
「お願いします」
 と正座したまま、床に頭をつくぐらいに深々と下げた。
「お、おう。それじゃぁ、まずはな……」
 近藤がまずは基礎中の基礎、礼の仕方から教え始める。俺は黙って、背を向けて、道場を出た。