「いいか?総悟。困ったこととか、怖いこととか、とにかく変わったことがあったら大声を出して大人を呼ぶんだぞ?いいか?」
 外に連れ出す前に、総悟に向かって、色々と近藤が心得を説明する。

「じゃあ、練習だ。大きな声を出してみろ。せーのっ。はいっ」
「…………」
 総悟はぼーっとした顔で、口をぱくぱく開けるだけで、声を出さない。
「総悟〜」
 近藤が困ったような声をあげる。
「無理無理。言いたいことも満足にいえない、そのガキが大声なんか出せるかよ」
 俺が馬鹿にしたように言うと、総悟がむっとしたような顔をする。
「なんだよ、その反抗的な顔は。何か俺に言いたいことでもあるのか?」
 と聞いたら、すーっと大きく息をすうと、
「バァァァァアアアアカ!!!!」
 と耳が痛くなるくらい超でかい、甲高い声で叫んだ。
 耳がいてぇ!!!!
「おっ。でかい声出せるじゃねぇか。その調子だ。いいぞぉ」
 近藤が喜ぶ。
「つーか、こいつ悪口しか言えねぇの?」
「もう一回だ。せーのっはいっ」
「シネェェェェェェェェ」
「つーか、なんで、こいつ、俺に向かって言う訳?」
「モテるつもりでいるんじゃねぇぞ!!!この無職がぁ!!!!」
「てめぇ、なんかこの俺に個人的な恨みでもあんのか!!!コノヤロゥ!!!」
「全く、トシは冗談が通じない奴だなあ。子供相手に本気で口喧嘩するなよ」
 やれやれと近藤が首を振る。
「つーか、冗談じゃないだろ。このガキ、絶対本気だろ?」
「いいか? こんなにカワイクて、毒舌なんだぞ〜?そのギャップこそが総悟のたまらん魅力って奴だろ〜?」
 近藤がデレデレと鼻の下を伸ばして訴える。
「あぁ、危ない危ない。本物の変質者がいるよ、ここに」
「ヘンタイィィィィイ!!!」
「俺に向かっていうな!!!!変態は近藤だ!!!」
「まぁまぁまぁ。ちなみに俺は変態じゃないぞ。可愛がってるだけだからな〜?ところでトシ、金貸してくんねぇ?」
「金〜?」
「使い捨てカメラ買ったら、なくなっちゃった」
「バァァァアカ!!!くだんねぇもんに金使ってんじゃねぇよ!!!」
「トシのバァァァアカ!!!」
「俺じゃねぇだろ!!!」