近藤が総悟を肩車して先を歩くのについていく。近藤の道場の居候をしている暇な浪人仲間達も何人かついてきた。
 肩車の上の総悟は、物珍しそうにあちこちを見回して、キョロキョロしていた。相変わらずの無表情で、楽しいんだか、楽しくないんだかさっぱり分からないが、あいつなりにあれはあれで楽しんでいたのかもしれない。
 縁日は、なかなかの人出だった。たくさんの屋台が並び、あちこちから美味そうな匂いがしてくる。
 とうもろこしの醤油の焦げる匂い、焼き鳥の焼ける匂い、砂糖の焦げる甘い匂い。あちこちで酒も配られている。
 顔の広い近藤は、すぐに顔馴染みに捕まって逃げられなくなり、総悟を肩から下ろし、すまねぇとか言いながら俺に押し付けた。
 近くを歩いていたはずの浪人連中も、振る舞われるお神酒や、美味そうな屋台に群がり、一人残らず消えていた。
 地元の小さい縁日なんて、と馬鹿にしていた大人達は、思い思いに祭りを楽しんでいるようだ。
 結局、俺と総悟だけがいつものように残された。
 やれやれ。

 自分が育てるだのなんだの言って、忙しい近藤はいつも美味しい所だけ掻っ攫って、結局、口煩く総悟の尻について回って、甲斐甲斐しく面倒見てやってる俺は所詮嫌われ役よ。
 まったく割の合わない話だ。
「総悟、何がしたい?」
 仕方なくぼーっとしている総悟に声を掛ける。
 総悟が黙って、屋台の一つを指差す。杏飴の屋台だ。
「……お前なぁ、欲しいなら欲しいってちゃんと口で言えよなぁ……」
 俺はブツブツ呟きながら、杏飴を一つ買ってやる。
 手渡してやると、トロい総悟は、杏飴の水飴を顔中にくっつけてボタボタ落とす。
「おいおい、その着物は借り物なんだからな〜。汚すなよ」
 手ぬぐいで顔を拭いてやる。やれやれ、俺はかーちゃんか?
「人からモノもらったら、ありがとうだろ。ありがとうは?」
「…………」
 ぼーっと、俺を見るだけで、何の反応もない。本当によく分からないガキだ。