その時、月が雲に隠れ、真っ暗になった。ぞくっと温度が下がるような嫌な予感がした。
 風が吹いていないのに、草が乱暴に踏み荒らされる音がした。
 あわてて、腰の木刀に手を掛ける。
 まずい。取り囲まれている。
「総悟、伏せろ!!!」
 と怒鳴った。
「お命、頂戴!!!」
 いきなり切りかかられて、木刀で受ける。キラッと刃の先が光った。真剣?
 暗闇の中、複数人の真剣を持った相手に、木刀じゃ、太刀打ちできない。体当たりや蹴りで、何とか、攻撃を交わす。
 総悟は?攻撃を交わしながら、暗闇の中、総悟を探す。
 その時、雲の合間から月が出た。月明かりに照らされた、俺の目の前で、総悟に今まさに剣が振り下ろされそうとしていた。
 反射的に総悟の前に、体が動いた。強烈な痛みが走る。切っ先に胸を掠められた。
 総悟を抱きしめる。俺の血がべったりと総悟についた。
 まったくこんな時も、声一つ上げやしない。おいおい、こんなところでガキと一緒に死ぬのかよ?
「………叫べ、総悟」
 と呟いた。
「アァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
 総悟が力の限り叫んだ。耳がおかしくなるくらいでかい声で。
「あっちだっ!!!」
 とたくさんの人がこちらに向かって走ってくる音がした。
「アァアアアアアァァァァァアアア!!!!」
 総悟は長い間、人が来るまでずっと叫んでいた。
「はっ、やればできるじゃねぇか……」
 俺はそう独り言を呟いて、そして意識を失った。