近藤が突然拾ってきたソイツはちっとも笑わねぇガキだった。

「なんだこのチビ」
「総悟って言うんだ。今日から俺達の道場の仲間だ」
 満面の笑顔で得意気に言う。
 俺は深くため息をついた。この道場の持ち主の近藤は、なんというか酔狂な奴だ。
 だから突然、思い立って、何かしでかすのは初めてのことではなかった。
「どっかで拾ってきたのか?おい、犬じゃねぇんだぞ」
 江戸の戦火は、片田舎のここまで飛び火していた。それまで抑えられていたありとあらゆる思想がぶつかりあい、江戸はすっかり焼け野原になっていた。
 江戸が十年も立たずの、奇跡の復興を遂げる前の話だ。刀を狩られた侍も、まだあちこちで刀を守って、抵抗していた。後に過激派テロリストと呼ばれる維新志士達がまだぎりぎりそこそこ英雄として持ち上げられていた頃の話だ。

 幕府という名の天人の操り人形に、今まで通り恩義を感じて従うべきか、国を守るために立ち上がるべきか、武士の家に生まれた者がどちらかの選択を強いられた頃、どちらにつくか、敵か味方かか、誰もが疑心暗鬼となり、つまらない殺し合いが、毎日のようにどこかで起きていた。
 これを戦争と呼ぶべきなのか分からないが、そんなつまらない殺し合いで、沢山の武士の親を殺され、住む家と財を奪われたいわゆる「戦争孤児」達が、町を所在なげにうろうろしていた。

「こいつはトシ。俺の仲間だ。これから世話になるんだ。頭下げとけ。総悟、挨拶は?」
 総悟と呼ばれたチビは、無言で俺を色のない瞳で睨むだけで、うんともすんとも言わなかった。