「あ〜、こいつ、色々あって、全く喋んないんだ。色々これから教えてやらないとな」
 近藤は困ったように笑いながら言った。

「どーするんだ、こんなガキ拾ってきて」
「もちろん。育てるんだ」
「お前、うちにそんな余裕あると思ってんのか?うちの道場だってなぁ、そんなに平和で安全な場所って訳じゃねーんだぞ」
 近藤はいわゆるノンポリな奴だった。田舎育ちで、人が良すぎて、ただ剣が好きで、江戸から逃げてきた行く場のない浪士達をどんどん田舎のボロ道場にかくまっていたお人好しだ。
「しーっっっ!!!!総悟、おいで。ちょっと庭で遊んでなさい。庭にいるんだぞ。門から外に出ちゃ絶対駄目だぞ」
 総悟とかいう小さなガキを抱き上げて、庭に出して、戻ってきた近藤はきっちりと襖を閉めてからため息をつく。
「あの子は沖田の屋敷の子だ」
「沖田の?」
 沖田といえば、あの、最近、でけぇ屋敷て、派手な暗殺劇のあった家か?お手伝いもろとも、家族全員、その屋敷にいたものが殺されたっていう…。確か50人以上の死者を出したっていう陰惨な事件だ。
 天人相手に商売して、儲けてたっていう噂があって、維新志士達に乗り込まれ、惨殺され、資産を根こそぎ奪われたと聞く。
「屋敷にいた者、全員殺されたんじゃなかったのか?」
「事件のあった二日後、洋間にあった向こうもののテーブルのテーブルクロスの下にしゃがんでいるのが見つかったんだってさ。かわいそうに泣きもせず、声もあげずに、ずっとじっとしていたらしい。何を聞いても、全く喋らないらしいんだ。すげぇ、ショックだったんだろうなぁ…。カワイソウに」
 近藤は情が深い奴だ。それは分かっているが、今はそれにつきあっていられない。
「で?」
「あの子は命を狙われてる」
「なに〜?」
「目撃者として、あの子が生きてるとまずい奴らがいる」
「そこまでわかっていながら、あのガキをわざわざ拾ってきたのか?」
「なんのために道場に何十人も腕の立つ奴が揃っていると思ってるんだ。こーいう時に使わないで、なんのための剣の腕だ!!!」
 近藤は腕をふるって熱弁をふるう。