後に武装警察真撰組の局長になるこの男は、この頃からすでに、地元の私設警察みたいな一銭にもならない仕事をてめえから好き好んで引き受けていた。
 大体が浪人生活というのはやることがなく暇なものだ。浪人なんてのは地域社会から浮いた、煙たがられる存在だ。そんな浪士達が集まったボロ道場は、地元民にとって当然、歓迎されない存在だ。
 それはまずい、もっと地域に貢献しなくては、という近藤の主張は概ね、俺も賛同する。生きるのには金がいるし。何か仕事をするにしてもつてがいる。
 近藤は、地元の貧しい子供達に、剣を教えたり、読み書きを教えたりしていた。武家の家に生まれたものは当然読み書きを完璧に仕込まれるものだが、貧しい町民の中には、まだ読み書きがまともにできない子供達もいた。決まった手習い料は貰わなかったが、恩を感じた子供達の親が、米や野菜や残った夕飯のおかずを子供に持たせたりしたのを、近藤は気を使うなといいながら、ありがたく頂いた。
「今の時代は助け合いだからな。困った時はお互い様。情けは人の為ならずだ。いつか、てめぇに帰ってくるものよ」
 それが、近藤の口癖だ。

 そんな訳で、暇な時の町の見回りであるとか、喧嘩の仲裁であるとか、ストレスがたまった憂さ晴らしに町民に意味もなく暴力を振るう浪士崩れに制裁を加えるなどの荒っぽい仕事に関して、俺も多少は協力した。近藤の人の良さが伝染したのか、火事の鐘の音を聞けば、一斉に道場の仲間達は、現場に駆けつけ、消火活動を手伝った。
 なんといっても家事と喧嘩は今も昔も江戸の華だ。
 酒と女にゃ弱く、人情に厚い。そんな近藤の人柄から、内職の仕事を貰って来たり(プライドの高い浪士達は傘張りの内職なんかやりたがらなかったが、不器用な近藤が一人でちまちまやっていると、みんな近藤に恩を感じているのもあって、黙って見ていられず、仕方なく手伝った。)、情夫から逃げたいという女をわざわざ関所まで守って送ってやったりした。全く物好きな奴だ。
「町の厄介者より、正義の味方のがいいじゃないか」
 確かに、その生き方は、近藤には似合っている。
 俺には似合いそうになかったが。
 しかし、今回は物好きにもほどがある。