+君しかいない+


 本当はちょっとドキドキするんだよね。テンションが上がってる勢いや、冗談だって分かってるんだけどさぁ。

 それでも、物凄く熱い瞳で、「愛してるゼ!!」なんて言われちゃうの、試合中でもそう言われると、一瞬動きが止まっちゃうんだよね。

 愛してるなんて、そんな簡単に普段使う言葉じゃないし、僕は君以外の誰かに冗談でも愛してるなんて言われたことないし。

 それが冗談だって分かってても、僕が相手コートにボールを決めたことをただ誉めてるだけなんだって分かってても、愛してるって言葉の意味の希少性や、言葉自体が持ってるパワーがあるから。そんなこと言われてしまうと、やっぱりドキドキしちゃうんだよね。

 それで試合でミスをしたら、君のがっかりしたもっと大きな声が、「頼むぜ、フジコ!!!」って飛んでくるから。試合中は出来るだけ平常心でいるようにしてるし、僕も試合中は集中してるからそんなことは気にならないけど。

 それでも練習の時とかまで、ラケットを握る君はテンションが試合と同じだから。最高!!!とか愛してるゼ!!って何度も叫ばれると顔が赤くなっちゃいそうで、困っちゃうんだよね。

 それはあまりに何時ものことだから、誰も相手にしてないし、誰も僕達のことを噂にしたりしないけど。
それでも胸は勝手にドキドキしちゃうから、一生懸命、顔見られないようにするの、結構大変なんだよね。

 君が僕に愛してるという時、君はいつも僕を「フジコ」って呼ぶから、それは僕じゃない違う誰かなんだって、いつもそう思って平常心でいようとしてる。
こんな沢山の人の前で愛してるぜって言うの、やめて欲しいなって思うんだけど、でもコートを出た君はとてもそんなこと言えないような不器用な人だから、全く言われなくなっちゃうのも、何だか淋しいような気がするから、仕方ないなって思ってたりする。

 だって僕のこと愛してるって言ってくれるの、とりあえず今の所は、この世に君しかいないんだもの。

 だから、今日も愛してるぜって言われても、何でもないって顔するの。