+僕のお気に入り+

「やっほ~。不二~」
 俺がにこにこと笑って手を振ると、笑顔を崩してぎろっと睨む。えらい嫌われてもうたなぁ……と頭を掻く。
 誉め言葉のつもりやったんやけどなぁ…。誉め言葉言うか、同士へのエールっちゅーか。

 いつもにこにこスマイルの不二が気に入って、用もないのによく青学に来てた。
「そんなに頻繁に青学に来て何の用?」
って聞かれたから、
「そりゃ、不二に会いに来とるに決まってまんがな」
と調子よく答えた。
「僕に会いに?なんで?」
「そりゃ、不二が気に入っとるからに決まっとるやろ?」
「何がそんなに気に入った訳?」
「そりゃまぁいろいろあるけどな。やっぱ八方美人で、心にもない笑顔振り撒いとるところやな」
と、答えたらその答えは不二の逆鱗に触れたらしく、次の瞬間、頬を膨らました不二に力いっぱい引っ叩かれた。
それ以降、この調子や。他の皆にはにこにこ可愛らしい笑顔を向けとるのに、俺に対してだけこうや。
は~、と大きくため息をつく。

 俺も同じだからさ。
まぁ大阪人ってだけで笑わせてくれると期待する皆に答えなきゃなってのもあるんやけど、いつも調子よく振舞って、へらへら笑って冗談言って。
これって、ほんとに優しい人間じゃなきゃ出来ないことなんだぜ。
俺は俺が笑われても、周りがちょっとでも笑って楽しくなって幸福になってくれれば良いと思ってるから、ホコリを持って馬鹿やってるし、不二もだからこそニコニコ感じよく皆に向かって笑うんだろう?辛い時も、苦しい時も。
だから、いつも回りに気を使って、ニコニコ笑ってる不二は俺の気持ちをわかってくれるっていうか、俺は不二の気持ちが分かるっていうか、俺達は仲間のような気がしたんだよな~。

「せっかく不二に会いに来とるんやから、そんな俺につれなくせんてもえーやんか~」
「君に優しくしてまた八方美人って言われたくないし」
不二はつれなくそっぽ向く。
「誉めたつもりなんやけどなぁ…」
「どこが!?」
「そんな根に持たんでもえーやろ?」
「忍足くんに向ける心にも無い笑顔なんてないよ!!!」
「お~こわ~」
「ふん!!」
「頬を膨らまして怒った顔も可愛いよ」
俺が調子よくそう言うと、またそれが不二の機嫌を損ねたようでギロっと睨まれる。誉めたつもりなんだけどな~。
まぁ良いか。不二がこんな顔になるのは、俺だけやろうし。それって俺が特別ってことやろ?

「じゃ、また来るわ、不二」
「もう来なくていいよ!!!」
「そんなこと言っちゃってまたまた~。俺が来ないと淋しいやろ~?」
「せいせいするよ!!!もう来るな!!!だいたい練習はいいの?」
「お!!俺の心配してくれんの?不二優し~い!!!!俺、ほんま惚れ直すわ!!!」
「早く君を追い返したいだけだよ!!!!」
「あ~もう、帰りたぁなくなったわ~」
「とっとと帰れ!!!」
その時、不二を呼ぶ声がする。それに気づいて不二の顔がいつもの笑顔に戻る。
「今行く~」
機嫌よくそう答えて手を振って、俺に振り向いて、また不機嫌な顔に戻って、
「い~っっだ」
と子供みたいに顔と動作で不機嫌を訴えて、走って行った。
「い~っだっ、だってさ」
残された俺はその時の不二の可愛らしい顔を思い出して独り言を言ってへらへら笑う。
ほんと、面白い奴。
「また来よ~っと」
俺はそう独り言を言って、跡部と岳人に怒られに学校に戻ることにした。